生成AIによるフェイク画像を判別する「C2PA」について解説
AI技術の進化により、生成AIはまるで写真かのような高品質な画像を生成できるようになりました。しかし、その一方で、ディープフェイクと呼ばれる偽画像や偽動画が悪用され社会問題化しています。特に信頼性のある情報を求める現代において、生成AIによって作られた画像や動画なのか、それとも本物なのかを判別する技術が求められています。そこで注目されているのが、「C2PA」です。今回は「C2PA」について解説いたします。
C2PAとは
「C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)」とは、Adobe、Microsoft、BBC、intelなどの大手企業が中心となって設立された国際的な団体です。「C2PA」の目的は、デジタルコンテンツの信頼性を高め、フェイクニュースやディープフェイクの拡散を防ぐことです。具体的には、デジタルコンテンツに「コンテンツクレデンシャル」と呼ばれる電子透かしのような情報を埋め込むことで、そのコンテンツがどのように生成され、編集されたのかといった来歴を記録し、公開することを目指しています。
ディープフェイクによる被害事例
ディープフェイク技術は、画像や動画を高度に合成し、あたかも現実にあるかのように偽造できる技術です。この技術が悪用されると、様々な深刻な被害が生じます。実際に起きた事例も含めてどのようなものがあるのか見てみましょう。
オバマ元大統領のディープフェイク動画
2018年にオバマ元大統領のディープフェイク動画が公開され、広く話題となりました。このフェイク動画は、オバマ氏が実際には言っていない内容を発言しているように見えるもので、ディープフェイク技術の危険性を示す典型的な事例です。この動画は、映画監督であるジョーダン・ピールとアメリカのメディア企業であるバズフィードが共同で制作し、ディープフェイクの可能性とリスクについての警告として意図されたものです。これにより、ディープフェイクが情報操作に使われる危険性が浮き彫りにされました。
ディープフェイク音声による詐欺事件
ヨーロッパでは、ディープフェイク音声技術を使用して企業のCEOになりすました詐欺事件が発生しました。まさにオレオレ詐欺の企業版といったところで、詐欺師がディープフェイクで作られた音声を使って、企業のCEOになりすまし、大規模な金額を別の口座に送金するように指示しました。実際に22万ユーロ(約2,600万円)が送金されるという被害が出ています。
国際情勢に影響を与えかねないフェイク動画
2022年には、ウクライナのゼレンスキー大統領が国民に降伏を呼びかけるようなフェイク動画が拡散されました。この映像はすぐに偽物であることが指摘されましたが、混乱を引き起こし、ディープフェイクが国際情勢に影響を与える可能性を示唆しました。
他には日本でも、生成AIを使って制作したと思われる岸田首相のディープフェイク動画がSNSで拡散され話題となりました。以上のように、ディープフェイク技術が悪用されると社会や個人に大きな影響を及ぼす可能性があり、技術の規制や倫理的な使用がますます重要視されています。
C2PAの仕組み
「C2PA」は、コンテンツの生成や編集の過程で、さまざまなメタデータを付与することで、コンテンツの履歴を追跡する技術を開発しています。メタデータには、誰が、いつ、どこで、どのようにしてそのコンテンツを作成・編集したかが記録されており、コンテンツが正当であるかどうかを判断するための基盤となります。
C2PAの活用
生成されたコンテンツに対して信頼性を確保するためのメタデータを付ける取り組みである「C2PA」ですが、この技術は実際に活用されています。例えば、Adobeの画像生成AI「Firefly」では、生成した画像に自動で「C2PA」のメタデータが付加されるようになっています。また、OpenAIが開発している画像生成AI「DALL・E3」で生成された画像にもメタデータが付加されるようになっており、同じくOpenAIが開発した動画生成AI「Sora」で作成されたコンテンツにもメタデータを付加する予定であると発表されています。
↓「DALL・E3」で生成した画像のダウンロード画面
コンテンツの認証情報のところに「AIで生成」と表示されています。
C2PAのメリット
「C2PA」の技術を導入することで得られるメリットはたくさんありますが、大きく分けて4つご紹介します。一つ目は「信頼性の向上」です。コンテンツの出所や編集履歴が明確になるため、ユーザーはコンテンツの信頼性を簡単に確認できます。もう一つが、「フェイクコンテンツの抑制」です。 フェイク画像やディープフェイク動画の拡散を防止し、誤情報のリスクを低減します。さらに「透明性の確保」が挙げられます。 クリエイターや編集者の作業履歴が記録されるため、コンテンツ制作の透明性が高まります。最後に、「ブランドイメージの保護」です。企業やメディアは、信頼性の高いコンテンツを提供することで、ブランドイメージを向上させることができます。
「C2PA」の技術は、デジタルコンテンツの信頼性と真正性を確保するための強力なツールとして、さまざまなアプリケーションやプラットフォームで採用されています。AdobeやMicrosoftをはじめとする大手企業の積極的な導入により、「C2PA」の技術は今後ますます普及し、デジタル社会における情報の信頼性を支える重要な役割を果たすことが期待されています。
最後に
生成AIの発展により、画像の真偽を判断することが難しくなる中、「C2PA」は、デジタルコンテンツの信頼性を確保するための重要な技術ですね。今後、一般ユーザーやクリエイターにとっても、「C2PA」の活用は信頼できる情報源を見極めるための強力な手段として必要不可欠になってくるのではないでしょうか。願うのであれば生成AIを悪用する人がいなくなるのが一番望ましいことではあるのですが…。
筆者Y.S