宇宙のルールをAIが読み解く時代へ──観測データから物理法則を導く新モデル「PhyE2E」の衝撃
宇宙の成り立ちや構造を理解するためには、膨大な観測データと高度な物理理論が欠かせません。しかし、その膨大さゆえに解析には長い時間と計算資源が必要で、研究者たちは常に“データの壁”と戦ってきました。近年、AIの力で天文学研究が加速する中、新たに登場した人工知能システム「PhyE2E(フィジー・エンドツーエンド)」が、宇宙物理学に大きな革命をもたらす可能性があるとして注目を集めています。
「PhyE2E」は、中国の清華大学(Tsinghua University)を中心とする研究チームが開発した新しい人工知能システです。従来の物理法則に基づく複雑な計算を、AIが学習した「物理法則のショートカット」で置き換えることを目指しており、従来のAIとは一線を画すアプローチで、天文学研究の新時代を切り拓く可能性を秘めています。
宇宙の仕組みを“直接理解する”AIとは?

「PhyE2E」は非常にシンプルな発想から生まれています。
「大量の観測データを見せれば、AIは宇宙の法則そのものを学び取れるのではないか?」
これまでの天文学は、観測されたデータを元に人間が理論を作り、それを検証するためにシミュレーションを回し、その結果を再び観測データと比較するという手順を踏んでいました。膨大なステップと計算が必要であり、精度向上には計算資源・人手・時間が求められます。しかし「PhyE2E」は、観測データをAIに直接“理解させる”という、新しいアプローチを採用しています。
✅望遠鏡が捉えた画像
✅スペクトルデータ
✅銀河の位置情報
✅重力レンズの揺らぎ
といった多様な情報を一括で処理し、宇宙の構造や力学を推定します。
驚異的な精度と汎用性

AIによるシミュレーションで最も懸念されるのは「精度」です。AIが導き出した結果が、既知の物理法則や従来のスーパーコンピューターによる高精度な数値計算の結果と乖離していないかという検証が不可欠です。
開発チームは、「PhyE2E」の予測結果を、従来の最も信頼性の高いシミュレーション結果と綿密に比較し、非常に高い精度(High Fidelity)を維持していることを実証しました。
非常に複雑な非線形現象の予測においても「PhyE2E」は従来のモデルと遜色のない、あるいはそれに匹敵する結果を数秒で出力できることが示されています。
研究に訪れる新時代──人間とAIが共同で「宇宙の真理」に迫る

今後、「PhyE2E」の活用によって以下のような科学的進展が期待できると考えられます。
✅宇宙の起源に関する新たな仮説の創出
✅ダークマター・ダークエネルギーの本質解明
✅観測データの解析時間を大幅短縮
✅未発見の宇宙法則の抽出
✅大規模天文台との連携による研究の効率化
特に、AIが“未知の物理”を自ら発見する可能性に注目が集まっています。従来の科学手法では見落としていた現象を、AIが新たな視点で捉えることで、宇宙研究に新しい光が差し込むと期待されているのです。
【今後の課題】AIによる科学研究の信頼性をどう確保するか
メリットが多い一方で、「PhyE2E」には課題も存在します。
✅AIの判断プロセスがブラックボックス化しやすい
✅モデルの再現性と透明性の確保
✅誤推論を防ぐための検証体制
✅観測データの偏りの影響をどう補正するか
科学研究においては「説明責任」が極めて重要です。そのため、AIの推論を人間がどのように検証し、共同で研究を進めていくのかが鍵となります。
最後に
「PhyE2E」は、膨大な時間とコストを要した宇宙シミュレーションの常識を打ち破り、科学研究のあり方を根本から変える可能性を秘めた革新的なAIシステムです。このシステムは、人類が長年解き明かせずにいるダークマターやダークエネルギーといった宇宙の謎に迫るための、強力なツールとなるでしょう。
“AIが宇宙を理解する時代”は、いよいよ現実のものとなりつつあります。今後、「PhyE2E」がどのような新発見をもたらすのか――科学者だけでなく、世界中の宇宙ファンがその成果に期待を寄せています。
筆者Y.S
