【広告革命】電通・ソフトバンクら4社が本気!「心を動かす」日本語コピー特化型AI開発の衝撃

ChatGPTをはじめとする生成AI(Generative AI)の進化は目覚ましく、マーケティングや広告制作の現場でも活用の波が押し寄せています。しかし、多くの企業が導入する海外発の大規模言語モデル(LLM)には、一つの大きな壁が立ちはだかっています。それは、日本語特有の「言葉の壁」です。
海外製のAIは、ロジックや事実に基づくテキスト生成は得意ですが、日本語が持つ繊細な語感、文脈の奥深さ、そして人々の心を動かす情緒的なニュアンスを捉えるのは困難です。特に広告コピーにおいては、たった一言で人々の感情を揺さぶり、購買意欲を促す「創造性」が求められます。
この根本的な課題に対し、日本の産業界をリードする4社がタッグを組みました。株式会社電通、株式会社電通デジタル、ソフトバンク株式会社、そしてSB Intuitions株式会社の4社が、「日本語コピーライティング特化型生成AI」の開発に向けた共同研究を開始したのです。これは、単なる業務効率化を超え、日本の広告・マーケティングのあり方そのものを根底から変える、「広告革命」の狼煙と言えるでしょう。
今回は、特化型AIの詳細や、それが日本のクリエイティブにもたらす未来について解説いたします。
なぜ今、特化型AIが必要なのか【共同研究の概要】

この共同研究のゴールは明確です。それは、「日本語特有の語感や繊細な表現を捉えた”心を動かす日本語の広告コピー”を生成すること」です。これを実現するため、各社が持つ強みを持ち寄り、日本ならではのコピー生成に最適化されたAIの構築を目指します。
共同研究の主体と役割分担
このプロジェクトは、それぞれの専門分野においてトップランナーである4社によって推進されます。
企業名 | 主な役割 | 強み・提供技術 |
---|---|---|
電通/電通デジタル | 企画・知見提供、データ提供、コピー評価 | コピーライティングの長年のノウハウ、AI広告コピー生成ツール「AICO2」の知見 |
ソフトバンク | 高度なAI計算基盤の提供 | 大規模なAIデータセンターおよび高性能な計算リソース |
SB Intuitions | 基盤LLMと特化型AIの開発 | 日本語特化LLM「Sarashina」の開発・チューニング |
この構成が示すのは、単に技術者が集まっただけでなく、「コピーライティングのプロフェッショナル」と「最高峰のAI技術者・インフラ提供者」が手を組んだという点です。特に、従来の海外製LLMの課題であった、俳句や短歌に代表される「詩的な表現」や、日本語特有のオノマトペ(擬音語・擬態語)、情緒的なニュアンスを高い精度で再現することが期待されています。
特化型AIの心臓部、キーテクノロジーと学習メカニズム

この特化型AIの中核を担うのは、SB Intuitionsが開発を進めている国産LLM「Sarashina(サラシナ)」です。日本の文化や言語構造に最適化された基盤モデルを用いることで、海外LLMでは難しかった、日本語の「行間を読む力」をAIに持たせることを目指します。
コピーライターの「発想」をデータ化
AIの精度を飛躍的に向上させる鍵となるのが、電通が持つコピーライティングの「発想法」の学習です。単に過去のコピーを読み込ませるだけでなく、電通が開発・活用してきたAI広告コピー生成ツール「AICO2」などで培われた、プロの思考プロセスをデータとしてAIに注入します。これにより、AIは「単語を選ぶ」だけでなく、「ターゲットにどう響かせるか」というクリエイティブな視点を持ってコピーを生成できるようになるのです。
高度な学習手法による表現力の強化
さらに、AIの表現力を磨き上げるために、最新の学習手法が採用されています。
■ SFT(Supervised Fine-Tuning/教師あり学習)
人間が作成した良質なコピーとその背景情報(質問・回答)を学習させ、AIに広告コピーとして望ましい基本的な知識と振る舞いを教え込みます。
■ DPO(Direct Preference Optimization)
AIが生成した複数のコピーから、人間(評価者)が「より良い」と判断したコピーを教師データとして学習します。これにより、AIは人間の感性や意図を深く学び、最終的に最適な表現を出力できるようになるのです。
これらの仕組みは、単に「良いコピー」を出すだけでなく、クライアントのマーケティング目的やターゲット層に合わせて、言葉のトーンや強弱を最適に制御することを可能にします。
AIが変える広告・マーケティングの未来

この「日本語コピーライティング特化型生成AI」は、広告制作現場に以下のような劇的な変化をもたらすことが期待されています。
創造性の「パートナー」としてのAI
AIはコピーライターの仕事を奪うのではなく、「創造的な発想のパートナー」としての役割を担います。企画初期段階で大量のアイデアやコンセプトを高速で言語化したり、コピーライターが思いつかないような「斜め上の表現」を提案したりすることで、人間の創造性を刺激します。これにより、コピーライターはルーティンワークから解放され、より高度で戦略的なクリエイティブ活動に注力できるようになります。
コピーライティングを超えた活用領域
この特化型AIがもたらす価値は、広告コピー制作に留まりません。
<ネーミング>
語感や響き、商標登録の可能性まで考慮した最適な商品名・サービス名の提案。
<ナレーション>
読みやすさ、伝わりやすさを考慮した自然なナレーション原稿の生成。
<マーケティング調査・分析>
複雑な顧客インサイトを、ターゲットに響く「言葉」で言語化するサポート。
言葉を軸とした広告・マーケティング領域全体で、ソリューションの高度化と効率化が実現します。
AIによる「自己評価・品質向上サイクル」の確立
さらに、このAIは出力した内容をAI自身が評価し、より良い表現を学習する機能強化も目指しています。これは、従来の制作プロセスにおける「試行錯誤と評価」のサイクルを高速で回すことを意味し、日本語コピーライティングの品質が継続的かつ自動的に向上していく、「AIによる品質保証体制」の確立につながります。
最後に

今回発表された共同研究は、生成AIの進化における「日本語モデルの決定版」を生み出す挑戦です。
従来のAIの課題であった「表現の薄さ」を、プロの知見と国産LLM「Sarashina」の力で克服しようとしています。これは、日本の広告・マーケティング業界にとって大きな一歩です。
この特化型AIが実用化されれば、私たちのクリエイティブな仕事は「AIが作ったものをどう使うか」という新たなステージに移行します。今後も研究の進展から、目が離せません。
筆者Y.S