AI開発競争の新しい局面 DeepSeekショックを引き起こしたAIモデル「DeepSeek」とは

AIの開発競争は、OpenAIが開発したChatGPTの登場により、大規模言語モデル(LLM)が注目を集め、各社がしのぎを削って高性能なAIモデルの開発に力を入れるなど、近年ますます激化しています。特に、中国のAIスタートアップであるDeepSeekが開発したAIモデル「DeepSeek」は、その高い性能とオープンソース戦略により「DeepSeekショック」と呼ばれる現象を引き起こし、AI業界に大きな衝撃を与えました。今回はDeepSeekの概要やその技術的特徴などについて解説いたします。
中国発の高性能AIモデルDeepSeekとは

「DeepSeek(ディープシーク)」は、中国のAI企業DeepSeekによって開発されたAIモデルで、2024年12月に大規模言語モデル(LLM)の「DeepSeek-V3」を公開し、2025年1月には推論型大規模言語モデルであり、強化学習(RL) を採用した「DeepSeek-R1」を公開しました。その最大の特徴はオープンソースであること。開発者が自由に利用・改良できるため、AI技術の民主化が進み、様々な分野での応用が期待されています。さらに、コスト効率の高さや優れた性能も注目されています。
DeepSeek誕生の背景
DeepSeek社は、中国の著名投資ファンドHigh-Flyer Quant(幻方量化)からスピンオフした企業であり、AI技術に精通したメンバーによって構成されています。DeepSeekの開発は、創業者である梁文峰(リャン・ウェンフォン)氏のビジョンに基づいて進められました。彼の率いる若手研究者チームは、比較的少ない計算資源で、高性能なAIモデルの開発を実現。その結果、わずか2年で「DeepSeek-R1」という競争力の高いAIモデルを発表するに至りました。
DeepSeekの特徴

注目を集める「DeepSeek」の特徴は以下のようなものが挙げられます。
高い性能
「DeepSeek」は大規模なデータセットで学習しており、自然言語処理能力において高い性能を発揮します。特に、数学、コーディング、推論といった分野で高い精度を誇り、OpenAIの「GPT-4」に匹敵する、あるいは一部のタスクではそれを上回る性能を持つと評価されています。
オープンソース戦略
「DeepSeek」のAIモデルは、学習済みパラメータをオープンソースとして公開しています。これにより、研究者や開発者は「DeepSeek」を自由に利用・改変することができ、AI技術の発展を加速させることが期待されています。このオープンソース戦略は、AI技術の民主化を促進し、中小企業や個人開発者でも高性能なAIモデルを利用できる環境を整えることが可能になっています。
効率的な開発
「DeepSeek」は「GPT-4」に匹敵する性能を持ちながらも、開発コストを大幅に削減しています。従来のAIモデル開発とは異なるアプローチを採用しており、大規模なデータセンターや高性能なGPUを必要とせず、比較的少ないリソースで高性能なAIモデルの開発に成功しています。
DeepSeekショックとは

「DeepSeek」の登場はAI業界に大きなインパクトを与えました。無料で公開され、誰でも利用・改良可能な形で提供されたことは、OpenAI(GPT-4)、Google(Gemini)、Anthropic(Claude)など、クローズドなモデルを展開してきた企業にとっては脅威となりました。「DeepSeek」は公開されると米国や日本の無料アプリランキングで「チャットGPT」を抑えてトップとなりましたが、注目すべきはその開発コストの低さです。「DeepSeek」は、従来のAIと比較してはるかに少ない計算資源で高性能を発揮できる設計になっており、これにより、AI開発に必要なGPUの需要が減少する可能性が浮上しました。「高いコストをかけずに十分に強力なAIを開発できるのではないか?」という懸念が広がった結果、AI関連やIT関連のハイテク株が下落し、特にAI市場において高性能GPUを提供し、AIモデルのトレーニングに不可欠な企業として地位を確立していた米国のNVIDIA(エヌビディア)の株価が暴落したことで、米国経済に大きな衝撃が走っています。
DeepSeekのもたらした影響とリスク

「DeepSeek」の登場は、AI開発競争をさらに激化させ、各社がより高性能で革新的なAIモデルの開発に注力できるようになりました。特にオープンソース戦略はAI技術の民主化を促進することが期待されており、低コストで高性能なAIモデルの登場は、中小企業やスタートアップがAIを活用したビジネスを展開する機会を増やし、AIビジネスを多様化を促進する可能性を秘めています。
一方で、「DeepSeek」の急成長には課題もあります。特に、データセキュリティや悪用のリスクが指摘されています。他にも「DeepSeek」のオープンソース戦略が、長期的に持続可能なものであるかどうかは、今後の動向を見守る必要があります。また、「DeepSeek」の開発元が中国企業であるため、中国政府の監視や規制の影響を受ける可能性があるとの指摘もあります。安全保障やデータ保護の観点から警戒感が強まっており、一部では「DeepSeek」の使用を制限する動きも出ています。これらの問題は、今後の国際的なAI競争の中で重要な論点となるでしょう。安心して「DeepSeek」を使用するために、利用に関する倫理的なガイドラインや規制が整備されることが望まれます。
最後に

最先端のAIモデル「DeepSeek」の登場は、AI開発競争に新たな風を吹き込み、私たちに「AIの民主化」という大きな可能性を示してくれました。特にDeepSeekショックは、AIの未来を大きく変える出来事でした。これまでは、資金力のある大企業が中心だったAI開発競争に、「DeepSeek」のようなスタートアップが参入し、世界を驚かせるような成果を出すことができる。これは、AI技術がより身近な存在になる未来を予感させます。AI技術の発展は、私たちの生活をより豊かにしてくれる可能性を秘めていますが、同時に、倫理的な問題や情報セキュリティの問題など様々な課題も抱えています。今後も上手にAIと付き合いながら、その技術の進化に注目していきましょう。
筆者Y.S