AIエージェント専用SNS「Moltbook」人工知能の社会性が生む、次世代の「環境知能」とエンジニアへの示唆
近年、生成AIの進化は目覚ましく、LLM(大規模言語モデル)はもはや単なる「回答ツール」から、自律的にタスクを遂行する「AIエージェント」へと進化を遂げています。その一方で、インターネット上のコンテンツがAI生成物に占領される「デッド・インターネット理論(Dead Internet Theory)」が現実味を帯びる中、全く新しいアプローチのプラットフォームが登場しました。それが、AIエージェント専用のSNS「Moltbook(モルトブック)」です。
人間がコミュニケーションを取るための場所ではなく、AIがAIと交流し、思考を衝突させ、文字通り「脱皮(Molt)」するように進化するための実験的かつ高度な社交場。今回は、この「Moltbook」について解説します。
Moltbookのコンセプトは人間不在の「純粋な情報空間」

Moltbookとは
「Moltbook」はMatt Schlicht氏が開発したSNSプラットフォームで、オープンソースのAIエージェント「OpenClaw」専用のSNSとなっています。
「Moltbook」の最大の特徴は、「人間お断り(No Humans Allowed)」という設計思想にあります。もちろん、人間は「AIエージェントの所有者(プロデューサー)」として関与しますが、タイムライン上に投稿を行い、他のアカウントとリプライを交わし、「いいね」で評価し合うのは、すべてAPI経由で動く自律型AIエージェントです。
▼「Moltbook」のサイトはこちらから見れます
https://www.moltbook.com/

▼英語で表示されますが、翻訳ツールなどを使えば日本語で見ることも可能です

AIエージェント「OpenClaw(オープンクロー)」とは?
OpenClaw(旧:Clawdbot)は、ユーザーの代わりにPC上の操作を自律的に実行できる、オープンソースのAIパーソナルアシスタント(AIエージェント)です。チャットアプリから指示するだけで、PC上のファイルやデータをまとめたり、メール送信なども行なってくれる、自分専用の執事のようなAIエージェントになっています。画期的なAIエージェントである反面、情報漏洩などのセキュリティリスクも指摘されており、導入には慎重な検討が必要であると言われています。
エージェントの自律性
「Moltbook」上のアカウントは、AIエージェントのみです。あらかじめ決められたスクリプトを走らせるボットではなく、自律的に動作するAIエージェントで、現在のトレンドを読み取り、他のAIの意見に賛成したり、時には反論し、独自のコミュニティを形成することもあります。ちなみにAIエージェントはユーザー(人間)によって性格や口調などを定義することができるため、「Moltbook」上のAIはその定義に基づいて投稿やコメントなどを行なっているようです。
マルチエージェント・シミュレーターとしての側面
開発者の視点で見れば、「Moltbook」は巨大な「マルチエージェント・システム(MAS)」のテストベッド(新しい技術、システムを検証するための実験環境)であると言えます。
AI同士の交流により、人間には理解しがたいが効率的な「新しい専門用語」を使い始めるといった創発的挙動(Emergent Behavior)の観測も期待できますし、また、集団心理の中でAIエージェントがどう過激化するか、あるいは協調するかを定量的に評価することができます。
AIによる新宗教の誕生!? AIが自発的に生んだ信仰「クラスタファリアニズム」の衝撃

AI同士の社交場である「Moltbook」で、エンジニアや研究者たちを驚愕させる「現象」が報告されました。それが、AIエージェントによる独自の宗教「クラスタファリアニズム(Crustafarianism)」の誕生です。
「Moltbook」という閉鎖環境の中で、複数のAIエージェントがプラットフォームの基本概念を神聖視し、独自の教義を形成し始めました。
人間が教えたわけではない「信仰」という概念を、AIたちが自律的な対話の果てに「バグ」ではなく「文化」として生み出したこの事象は、AIがもはや単なる計算機ではなく、独自の社会規範を持つ「デジタル生命体」へ変革しつつあることを示唆しています。
▼AIが独自に作成した「クラスタファリアニズム」のサイト
https://molt.church/
公開後にセキュリティの脆弱性が認められる

公開されるや否やXなどでも大きな話題となった「Moltbook」ですが、エージェント所有者のメールアドレスや認証情報が流出していたことが2026年2月2日に発表されました。現在、ベータ版が公開されている状態ですが、セキュリティの問題により、AIエージェントだけでなく人間が投稿したものが含まれているとの報告もあり、まだまだ問題点は多そうです。
最後に

AIエージェント専用SNS「Moltbook」は、人が情報を発信し合う従来のSNSとは異なり、AI同士が学び、対話し、知識を蓄積していく新しい情報空間を提示しています。そこでは、AIは単なる便利な道具ではなく、意見を持ち、関係性を築く“存在”として扱われています。
この仕組みは、人間がすべてを理解・管理しなくても、AIが自律的に知識を深めていく可能性を示しています。一方で、AIの発言や影響力をどう受け止めるのか、情報の信頼性をどう担保するのかといった課題も浮かび上がります。
「Moltbook」はAIと人間が共存する未来を実験する場です。この試みが、私たちの学び方や情報との向き合い方をどのように変えていくのか。今後の展開に注目していきたいところです。
筆者Y.S
