【伝説の3D地図が進化!】「Mini Tokyo 3D」開発者が生んだ次世代アプリ「GTFS box」が切り拓く公共交通データの未来
日本の公共交通の分野で「オープンデータ」という概念が広く認知されるきっかけとなったアプリケーションといえば、2019年に大きな話題を呼んだ「Mini Tokyo 3D」です。このアプリは、東京都内を走る鉄道やバスの動きを、3D地図上にリアルタイムで再現するという画期的なものでした。単なる運行情報確認ツールではなく、「動く交通機関を愛でる」という新しい楽しみ方を提示し、同年に実施された「東京公共交通オープンデータチャレンジ」の第3回で最優秀賞を受賞し、多くのメディアで取り上げられました。
そして2024年度、この伝説的な作品のクリエイターである草薙昭彦氏が、その発展形とも言える次世代アプリ「GTFS box」を発表しました。同年の「公共交通オープンデータチャレンジ2024」において優秀賞を受賞したこの新作は、前作の感動的な可視化技術を受け継ぎながら、その利用範囲と目的を大きく進化させています。
今回は、「Mini Tokyo 3D」が確立した土台を踏まえつつ、その後継である「GTFS box」がどのような機能と技術的ブレイクスルーを実現し、公共交通データの活用にどのような未来をもたらすのかを解説します。
「Mini Tokyo 3D」が確立したもの

「GTFS box」の前作でもある、2019年に大きな話題を呼んだ「Mini Tokyo 3D」は、主に以下の二つの点で画期的でした。
リアルタイム性と没入感
公共交通の運行情報は、GTFS-Realtimeデータとして提供されていますが、これを取得し、高精細な3D地図(Mapbox GL JSなど)上に遅延なくプロットする技術は当時、非常に高度でした。これにより、ユーザーはまるで巨大なジオラマを見ているかのような臨場感と没入感を得ることができました。
新しいユーザー体験
電車が駅を出て、トンネルに入り、また出てくる・・・、といった普段見過ごしがちな交通の動きが「データ」として可視化され、多くの人々が「動く交通機関を愛でる」という楽しさに目覚めました。これは、単なる「運行情報」の確認に留まらない、データ活用のクリエイティブな側面を開拓したと言えます。
「Mini Tokyo 3D」は基本的に「東京都内の鉄道・バス」に特化しており、その目的は「可視化すること」にありました。
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GTFS boxが目指す次のステップ「見る」から「操る・活用する」へ

「Mini Tokyo 3D」の成功を土台に、「GTFS box」は次の段階へ進みました。その方向性は、「誰でも、世界のどこでも、交通データを活用できる汎用ツール」への進化です。
「GTFS box」は、可視化の対象を東京ローカルから、公共交通データの世界標準フォーマットであるGTFSに対応したあらゆる地域へと広げました。これにより、ユーザーは世界中の都市の交通データを自由に読み込み、その動きを3D空間で分析・シミュレーションできるようになります。つまり、前作が「感動的なアート作品」であったとすれば、今作は「プロフェッショナルなデータ分析・開発ツール」としての側面を強く持っているのです。
GTFSとは?
GTFSは「General Transit Feed Specification」の略で、公共交通機関の時刻表、路線、バス停などの位置情報を共通形式で記述した国際標準のデータフォーマットです。時刻表や路線、バス停の位置情報などを共通フォーマットで定義しており、日本では特にバス事業者向けに「標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)」として活用が進み、経路検索サービスなどの利便性向上に貢献しています。
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【GTFS boxの核心】技術的なブレイクスルーと機能

GTFS boxの最大のブレイクスルーは、「汎用性と高精度なリアルタイム処理」の両立に成功した点にあります。
「GTFS box」の主要機能 データ活用のためのインターフェース
「GTFS box」は、交通データの専門家や開発者が求める多様な機能を備えています。
<世界標準GTFSのサポート> 世界中の公共交通機関が提供するGTFSの静的データ(路線情報、時刻表、停車駅など)およびリアルタイムデータ(車両位置、遅延情報など)をユーザーが取り込み、シームレスに統合できます。
<3D可視化とシミュレーション> 「 Mini Tokyo 3D」から受け継いだ3D描画機能により、取り込んだデータを美しい地図上にリアルタイムで表示。運行ルートや車両の動きを直感的に把握できます。
<デバッグと分析機能> 運行データの異常や、時刻表とリアルタイムのズレなどを容易に検出・検証できる機能が搭載されており、これは交通アプリ開発者にとって非常に価値のある機能です。
リアルタイムデータと3D描画の統合
「GTFS box」の裏側を支えているのは、膨大なデータを高速で処理し、描画する高度な技術です。
<GTFS-Realtimeの最適化> GTFS-Realtimeデータは車両の位置情報などが数秒単位で更新されるため、これを遅延なく取得し、計算、そして3D座標に変換する処理には高い効率が求められます。「GTFS box」は、このデータストリームの処理を最適化することで、世界中の大規模な交通データをスムーズに扱える能力を持っています。
<高性能な3Dマッピング技術> WebGLをベースとした3Dマッピングライブラリを巧みに利用することで、車両の3Dモデルや複雑な建物の表示を伴いながらも、高いフレームレートを維持しています。これは、技術的な美しさだけでなく、データを直感的に理解するためのデザインにも深く関わっています。
<汎用的な設計思想> 開発者が特定の都市に依存しない設計を採用したことで、GTFSという国際標準さえあれば、東京だけでなく、ロンドン、ニューヨーク、あるいは地方のバス運行情報であっても、同質のクオリティで可視化・分析が可能となっています。
公共交通オープンデータ活用の新たな展望

「GTFS box」の登場は、公共交通データ活用のエコシステム全体に大きな影響を与えることが期待されます。
交通プランナー・研究者への貢献
これまで、交通データの分析やシミュレーションは専門的な高価なソフトウェアが必要でした。しかし、「GTFS box」は、Web上で動作し、比較的容易にデータを取り込めるため、都市計画の研究者や交通プランナー、学生などが、データの検証や政策の効果予測を直感的に行うための強力なツールとなります。
例えば、「新しいバス路線を導入したら、他の路線の運行にどのような影響が出るか」といったシミュレーションを、実際のデータを基に手軽に行えるようになるかもしれません。
アプリ開発の民主化とエコシステムの成熟
「Mini Tokyo 3D」が示した「可視化の可能性」が、「GTFS box」によって「汎用的なデータプラットフォーム」として多くの開発者に提供されます。
これは、誰もが公共交通オープンデータを用いた新しいアプリケーション開発に挑戦する敷居を下げることにつながります。「GTFS box」でプロトタイプを作り、その成果を他のサービスに組み込むといった、オープンデータ活用の「民主化」が加速するでしょう。
「公共交通オープンデータチャレンジ」が果たす役割
「GTFS box」が優秀賞を受賞した、「公共交通オープンデータチャレンジ」とは、公共交通の時刻表や運行情報などのオープンデータ(GTFSなど)を活用した革新的なアプリケーションやアイデアを募集するコンテストです。国土交通省や公共交通オープンデータ協議会などが主催し、開発者の自由な発想を奨励することで、日本の複雑な公共交通システムの利便性向上や新しいビジネス創出を目指しています。「東京公共交通オープンデータチャレンジ」の第3回で最優秀賞を受賞した「Mini Tokyo 3D」のように、社会に大きなインパクトを与える作品が生まれています。ぜひ公式サイトで過去の作品や最新情報をチェックしてみてください。
最後に
「GTFS box」は前作のリアルな3D可視化技術はそのままに、世界標準のGTFSデータを自由に扱えるツールへと大きく進化しました。この「GTFS box」は、日本の交通の利便性を上げるだけでなく、「交通データを自分の手で活用する」という新たな扉を開いています。
もはや、公共交通の運行情報は、単に「遅延を確認するもの」ではありません。「GTFS box」は世界の都市がどう動いているかを分析し、理解するための、最強かつ最高のインターフェースとなっています。交通に興味がある方、データ活用に携わる方はもちろん、最新の技術による驚くべき可視化を体験したい方は、ぜひ「GTFS box」を体感してみましょう。
筆者Y.S
