「農家は Replace() されました」が正式リリース!ドローン×プログラミングで耕す農業パズルの世界
スイス・チューリッヒのゲーム開発会社 Metaroot が開発を手がける新作パズルゲーム 「農家は Replace() されました(英題:The Farmer Was Replaced)」 の正式版が、Steamで配信開始されました。このゲームでは、プレイヤーが広大な農場を舞台に、無人ドローンを駆使して農業を営むのですが、このドローンを動かすのが、なんとプログラミング言語なのです。2023年3月に早期アクセスが開始され、コアなプログラミングファンの間で話題を呼んでいた本作は、Steamレビューにて「圧倒的に好評」を獲得。「コードで農業を自動化する」 というユニークなテーマを掲げ、単なる農業シミュレーションではなく、“農家そのものをプログラムで置き換える” というタイトル通りのコンセプトで、プレイヤーに新しい思考型ゲーム体験を提供しています。
「農家は Replace() されました」とは?

タイトルにある「 Replace() 」とはプログラミングやスプレッドシートなどで使われる関数で、「置き換える」という意味を持っています。本作の舞台は農場。プレイヤーは「プログラマー」となり、収穫や水やり、種まきといった作業をコードによって自動化していきます。操作自体は視覚的にわかりやすいインターフェイスで行え、プログラミングの知識がなくても始められる設計。一方で、ロジックを理解してより効率的なコードを組めば、作業時間やリソースを最適化できるなど、プログラマー気質のプレイヤーを熱中させる奥深さも備えています。
▼MetarootのYouTubeチャンネルで紹介されています
ドローンを操る「Python風言語」

(出典:Metaroot YouTubeチャンネルより)
このゲームのドローンを制御するのは、Pythonによく似たシンプルなスクリプト言語です。複雑な文法を覚える必要はなく、「move()」で移動、「harvest()」で収穫といった基本的な関数からスタートします。
初心者にとって嬉しいポイントは、最初から難しいプログラムを書かされるわけではない点です。収穫などの単純作業から始め、資源を集めることで「While」ループや「If」条件分岐、さらに関数(Function)といったプログラミングの核となる概念を、段階的にアンロックしていきます。
プレイヤーはドローンに「コード」という名の設計図を与え、それが実際に農場で動き出すのを眺めることになります。この「書く」→「動かす」→「最適化する」というシンプルなループが、コーディング学習における最も楽しく、そして効率的なプロセスとなるのです。
継続進行型の「生きた」農場
多くのパズルゲームが「面クリア型」であるのに対し、本作の農場は「ひとつの継続ワールド」として存在します。プレイヤーが書いたコードがそのまま農場のインフラとなり、時間を追うごとに作物が成長し、リソースが集まり、経済が回っていくのです。これが何を意味するかというと、過去に書いたコードの「負債」も「資産」も、すべてが蓄積されるということです。以前書いた効率の悪いコードは、農場拡大のボトルネックとなり、プレイヤーに「改善(リファクタリング)」を迫ります。逆に、美しい最適化コードは、自動でリソースを稼ぎ出し、農場の指数関数的な成長を可能にします。プレイヤーは、目の前の課題を解決するだけでなく、「将来の拡張性」や「リソースの配分」といった、まるで実際のシステム設計のような課題にも直面することになります。
パズルとしての「最適化の快感」

(出典:Metaroot YouTubeチャンネルより)
本作の醍醐味は、「いかに無駄なく動かすか」を追求する最適化プロセスにあります。
<空間設計>畑のレイアウトをどのようにすれば、ドローンの移動距離を最小限に抑えられるか?
<時間設計> ある作物の成長を待つ間、別の作物の水やりや運搬を並行して行わせるには、コードをどう組むべきか?
<役割分担>一台のドローンにすべてを任せるのではなく、「植え付け担当」「収穫・運搬担当」など、複数ドローンに役割を分担させ、スループット(単位時間あたりの処理能力)を最大化する設計。
この試行錯誤の末、長く、複雑だったコードが、数行の関数にスリム化され、ドローンたちが一糸乱れぬ完璧な動きで農場を自動運営し始めたときの快感は、他に類を見ません。
正式版(v1.0)で実現した「大規模農業」の可能性

約2年半にわたる早期アクセス期間を経て、正式版としてリリースされた本作では、単なるバグ修正に留まらない、ゲーム体験を大きく変える強化が行われました。
複数ドローンによる大規模な自動化
正式版の最大の目玉は、複数ドローンによる同時操作機能の本格的な導入です。早期アクセス版では難しかった大規模農場の運営が、この機能で現実的になりました。プレイヤーは、それぞれのドローンに独立した役割を与え、複雑な連携コードを記述することで、畑の規模が大きくなっても効率が落ちない「分散処理システム」を構築する面白さに没頭できます。これは、システム設計や業務効率化の現場で直面する課題と本質的に同じであり、ゲームを通じて実務に通じるスキルを磨くことができます。
開発環境の劇的な改善
硬派なゲーマーや現役のプログラマーからの要望に応え、正式版では外部エディタのサポートが充実しました。ドローンのコードファイルは「.pyファイル」として保存されるため、多くのプログラマーが愛用するVisual Studio Code (VS Code) などの外部エディタで直接編集が可能です。さらに、ファイルウォッチャー設定により、外部エディタでの変更がゲームに即座に反映されるため、「実装→実行→改善」のデバッグサイクルが高速化され、ストレスなくコーディングに集中できる環境が実現しました。
その他、完成度を高めた要素
<翻訳の充実>日本語を含む全11言語に対応し、より多くのプレイヤーが言語の壁を感じずにプレイできるようになりました。
<サウンドと音楽の刷新> BGMや効果音が全面的に刷新され、長時間プレイしても心地よい、没入感の高い農場体験が提供されています。
<Steamでの販売情報>価格は1,200円(税込)ですが、現在、正式リリースを記念したローンチセールが実施されています。
最後に
「農家は Replace() されました」は、「プログラミング教育」と「パズルゲーム」を高次元で融合させた傑作です。プログラミング初心者にとっては、Pythonライクな言語の基本的な構文や論理構造を、「失敗しても楽しい」というゲームを通じて、自然に習得できる最高の学習教材となります。一方、現役のプログラマーやエンジニアにとっては、コードの「美しさ」「拡張性」「効率」を追求するという、実務に通じる知的好奇心を刺激する、硬派なパズルとして機能します。スイスの開発会社Metarootが生み出したこのゲームは、単なる暇つぶしのツールではなく、「自動化の力」と「論理的思考」の重要性を、遊びを通じて世界中に発信する強力なメッセージです。硬派なパズルを愛する方、またはプログラミング学習に一歩踏み出したい方は、ぜひ本作を体験してみてください。
筆者Y.S
