揺れる英国AI著作権、著名アーティストらも保護を訴え、著作権法改正の攻防、そして創作の未来は?

2025年5月、英国の著名なアーティストや俳優など400人以上が、AIによる著作権侵害の懸念を表明し、首相キア・スターマーに対して著作権法の強化を求める公開書簡を提出しました。この書簡には、ポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、デュア・リパ、ケイト・ブッシュ、イアン・マッケランなどが署名しています。 彼らは、AI企業が著作権で保護された作品を無断で使用してAIを訓練することに対して、透明性と公正な補償を求めています。この動きは、英国の創造産業の未来に対する深刻な懸念を示しています。
AIと著作権、英国で激化する対立

AI技術の進展により、生成AIが音楽、文章、画像などのコンテンツを自動生成できるようになりました。しかし、その訓練には大量の既存の著作物が使用されており、著作権者の許可なしに利用されるケースが増えています。英国政府は、権利の保有者がオプトアウト(拒否の意思表示)しない限り、AI企業がトレーニング用として無許可で素材を使用できる法案を提案しましたが、これに対してクリエイターたちから強い反発が起こっています。彼らは、自身の作品が無断で利用されることにより、創作活動の価値が損なわれると主張しています。
英国政府の提案とクリエイターの懸念

政府が提案した「オプトアウト」方式では、著作権者が明示的に拒否しない限り、AI企業が作品を使用できるとされています。しかし、クリエイターたちは、この方式が実質的に著作権の放棄を強いるものであり、管理が困難であると懸念しています。彼らは、AI企業に対して使用した著作物の開示を義務付ける修正案を支持しており、透明性と公正な補償を求めています。
アーティストたちの抗議活動
アーティストたちは、政府の提案に対して様々な抗議活動を展開しています。2025年2月には、ケイト・ブッシュやデーモン・アルバーンなど1,000人以上のミュージシャンが、サイレント・アルバム「Is This What We Want?」をリリースしました。このアルバムは「ほぼ無音」のトラックで構成されています。スタジオやパフォーマンススペースの環境音が含まれており、これは、音楽の不在を象徴したものとなっています。AIによる著作権侵害への抗議を示すもので、収益は音楽家支援団体に寄付されました。 また、公開書簡やメディアを通じて、政府に対して著作権保護の強化を訴えています。
創造性と技術革新のバランス

AI技術の発展は、創造産業に新たな可能性をもたらす一方で、著作権侵害のリスクも高めています。クリエイターたちは、技術革新と創作活動のバランスを保つために、法的な枠組みの整備が必要であると訴えています。透明性の確保、公正な補償、著作権の尊重は持続可能な創造産業の発展に不可欠です。政府とクリエイターが協力し、共存可能な仕組みを構築することが求められています。
日本国内の法制度との違い
英国では、著作物の利用に対して「明示的な許可を求める」方向へと議論が進んでいます。これは、AIの発展よりも、創作者の権利を優先する動きといえるでしょう。一方、日本は産業育成や技術競争力の維持に重点を置いており、そのためクリエイター保護よりもAI利活用を促進する法制度となっています。この違いは、今後日本でも法改正が求められる可能性を示唆しており、すでに文化庁や知的財産戦略本部などが検討を始めています。
最後に
英国におけるAIと著作権を巡る議論は、世界中の創造産業にとって重要な前例となる可能性があります。クリエイターたちの声が政策に反映され、技術と創造性が共存できる社会の実現が期待されます。今後も、AI技術の進展とともに、著作権保護の在り方についての議論が続くことが予想されます。クリエイターと政府、テクノロジー企業が協力し、公正で持続可能な枠組みを築くことが求められています。
筆者Y.S